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鵜川医院レター(2023-02-24)

ガスコン/シメチコンについての臨床的考察

鵜川医院レター(2023-02-24)

鵜川医院レター(20230224)

作成日: 2023年2月24日 分類: 鵜川医院レター 作成者: Kunio Ukawa

「瓦斯来ん」という薬

「えーっと、最後によろしいでしょうか」 「どうぞ」 「ガスコン下さい」 「出したことありますか?」 「あります」 「何年か前ですね、えーーーっと了解です」 「すみません、ガスコンって何に効くんですか?」 「笑」

「ガスコンはねえ、反芻動物に与えると、ゲップが減ります」 「そうなんですか。人間は?」 「わかりません。そういう論文は見つけていません。牛や羊については、ゲップ、彼らのはメタンガスですが、それを減らす薬の特許はたくさんありますし、論文もあります。フマル酸やら善玉菌やら色々ですが、その一つがGas-Xという名前でアメリカでは売っているガスコンなのではないか。ニュージーランドかどこかで日本企業が特許を取ったニュースを見た気がします。反芻動物由来のメタンガスを減らせば、地球温暖化のスピードを遅らせるかもしれませんね。なぜガスコンはメタン産生を減らすのか想像してみます。それはメタン産生菌(多くは古細菌だとされる)が『泡の中で増えやすい』という性質があるのでは?と考えると良い。空気が好きな細菌とかはそうでしょう。ビールで言うとエール。上面発酵に近い状態なのではないか。泡を消す消泡剤ガスコンはしたがってメタンを減らすんじゃないでしょうか」 「?」 「まあ人間では胃ではメタンガスは発生しませんから、関係ない話です。でもおならの中にはメタンガスは含まれますよ」 「そうなんですか」 「おならは燃えるでしょ?」(電撃ネットワークなど参照) 「え?」 「メタンや水素がある程度含まれますからね。そしてそれらのガスは水に溶けにくいためにお腹が張ります。ガスコンはそれらのガスの産生を減らしてくれたり、表面張力を減らして狭い部分でガスが通りやすくしてくれて痛みを抑えるのでしょうね。ちなみに構造式的にはリンスです」

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「リンスって?」 「シャンプーとリンス、のリンス」 「リンスですか?」 「シャンプーの泡を消すでしょう?」 「ああ、リンス飲んで大丈夫なんですか?」 「リンスそのものだ、とは言ってません。ガスコン、つまりジメチルポリシロキサンは1952年にダウコーニングが製法特許を申請しています。シリコーンオイルの一種で、無色、無毒、不燃、不活性で、表面張力を低下させる特性がありますよ。リンスの成分にも同様のシリコーンオイルが含まれます。なんとなく同じ感じがしませんか?」 「なんか嫌ですね」 「あら、あなたはリンスはノンシリコン派ですか?シリコンを嫌うなら泥パックもだめですよね?泥はシリコンですから。とりあえずガスコンは安全だという事を強調したくてお話をしています。2022年のことですが、ガスコンは下痢型過敏性腸症候群の痛みを減らすとのRCTも出ました」 「?」 「素晴らしいですよね?ガスコンを飲んでいると従って、おならが燃えないという可能性はあります、メタンが少なくなって。他にもありますよ。聞きたいですか?」 「うーん」 「ガスコンは赤ちゃんの夜泣きにも効きます」 「そうですか」 「日本ではキッセイ薬品工業が早くから消化管検査用にガスコンを売っていたのですが、米国では赤ちゃんの夜泣きを減らすお薬として売っています。そのGas-Xを内視鏡時に使っていました。逆に言えば、米国ではガスコンと言えば赤ちゃんに飲ませるための薬です」

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「?」 「これたぶん原理は反芻動物と同じです。赤ちゃんのお腹はそもそもガスでパンパンなのがデフォルトですが、腸内には大人と違い善玉菌が非常に多いため健康な赤ちゃんの場合ガスはたぶんほとんど二酸化炭素で、普通は痛くないはずです。ところが様々な原因でメタン産生菌が混入すると、メタンは吸収されずにお腹が張るので夜泣きするんじゃないでしょうか。ガスコンはガスそのものを減らしてくれたり、表面張力を変えてガスを通りやすくするのでは。面白くないですか?」 「?」 「ガスコンが何に効くかの説明をしましたけれど、これで大丈夫でしょうか」 「ゲップを減らすんですか?」 「たぶん減らしません。出やすくなりますよ」 「そう出やすくなるんです。出なくて苦しい時に効きます。だからもらいたいんです」 「僕に質問する必要ないのでは?用途は理解しているようですし」 「なんで効くのかなあって」 「あなたがまずどう感じていて、という前提を述べないと下らないうんちくを聞かされますよ?ゲップが出やすいのはコーヒーのドリッパーに泡だらけの液体を入れても落ちて行きにくいけれど、泡を消すガスコンを添加すればどんどん落ちる、みたいな実験をすれば納得してくれます?重力の方向は逆になりますが。古細菌は関係なくて主に表面張力の変化によります」 「うーん」 「赤ちゃんはミルク飲んだ後に、うつ伏せ気味で背中トントンしてゲップさせないとあとで吐いちゃうでしょう?」 「そうなんですね」 「大人は通常自分でゲップを出せますが、出せないと苦しいのは赤ちゃんと同じです。胃の中に泡が多すぎてゲップが出てこない、出そうとすると胃の内容が一緒に出てきそうで出せない、などというケースがあるのでしょう。その場合ガスコンを飲むと泡が消えて空気だけを出せる。わかりますか?」 「もういいです」

ご期待に添えなかったかもしれません。申し訳ない。

ガスコンの使い道は無数にありますが、お腹のガスに伴う諸症状の改善、とされています。他の治療法が適切な場合もあるので、「薬ください」にならないように、わざと複雑な説明をすることをご了承下さい。人によってはこの説明をとても面白がってくれます。

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