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鵜川医院レター(2024-10-17)

感染症後遺症・ストレスマネジメント・憩室炎予防などについての臨床的考察

鵜川医院レター(2024-10-17)

鵜川医院レター(20241017)

作成日: 2024年10月17日 分類: 鵜川医院レター 作成者: Kunio Ukawa URL: https://bit.ly/3YgTOb7

感染症の後遺症は特別ではない

お子さんに打つワクチンにはいろいろあります。目的は命を守るため、そして後遺症予防のためにも重要なのです。

ジフテリア、これは古くは3種混合ワクチンに、今は5種混合、に含まれています。気管切開の痕がありエコーで腎臓が小さく見えた患者さんに父が「あなたは子供のころジフテリアにかかったんですね」と問いかけていました。ジフテリアの後遺症として腎機能が悪くなる人がいる。私はジフテリアを知らない世代ですが、瞬時に多くの情報が脳内を駆け抜けていきました。一度勉強した知識が再度深く刻まれるとはああいう事を言うのでしょう。

重要な感染症にはワクチンが開発され、根絶されればワクチン接種は終了します。例えば種痘はそうです。私は種痘を受けましたが、若い方々は受けていません。今のところ天然痘のような、根絶された感染症は少なく、まだたくさんワクチンを打たねばならないどころかさらに増えている。でも人間が社会的な動物であることを維持するには大切なこと、として理解して欲しいです。

さて話の中心を感染症の後遺症に移しましょう。

COVID-19の後遺症に悩んでおられる方々は数が多いので目立ちますが、それ以外のウイルス感染・細菌感染の後遺症でも「うつ」「慢性疲労」と診断されている場合があるはずです。多要素だからはっきりしなかっただけで。実際ノロウイルスなど消化器の感染症が先行し、うつ状態とされている症例はしばしば経験し、自分の場合はPI-IBSなどと診断名をつけて、リハビリと称したCBS(認知行動療法)+αを行うわけです。

だからこの現代においてCOVID-19の後遺症のみ強調する事を私は避けたい。SARS-CoV2はACE2受容体をターゲットとするが故にほぼすべての細胞に感染してしまうので、当然脳にも感染することはあるでしょう。それを特別視せず、一般的にウイルス感染ないし細菌感染では一定の確率で後遺症は残しますので、一般化して理解したい。

COVID-19の後遺症を気のせいだとせず、まじめに認識している先生が多いのは朗報ですが、いかんせん研究に予算がつかないのは残念(科研費を調べると数千万円レベル)です。ここはすべての感染症の後遺症をまるっと研究することにして、ワクチン研究に400億円/年ぐらい充てるなら、後遺症研究にも100億円単位で研究費がつくと良いのになとは思います。僕が知らないだけならすみません。

新型コロナ後遺症、ワクチン接種後症候群の対処法

したがってヒラハタクリニックの院長先生が書いたサイト(上記)も、メタ化して理解しておくほうが良いのではないかと考えます。でははじめます。参考文献:☆, Yale

後遺症で起きている病態:

慢性炎症、特定部位の破壊・萎縮、自己免疫誘発、消耗、が後遺症の本態である。

診断方法:

症候であり診断精度に限界はあるが、他の器質疾患の紛れ込みを除外しつつ、バイオマーカーを測定する。Vit.D、亜鉛、フェリチン(鉄)、COVID-19に関してはリパーゼ(海外でよく言われている:日本ではトリプシンも測定しそれも高いようだ)、慢性炎症のマーカーとしてIL-6やCRP、TNF-αも測定される。神経系の症状の指標としては睡眠が大切で、呼吸機能も重要である。肺機能はTGF-βと相関する。レビューを複数読んだが混乱しており、単一で役立つマーカーはないようだ。複雑な病態なのでおそらく、機械学習による評価が今後は主流になる。

治療:

  • 内分泌に関して:ヒラハタクリニックに来院する患者は重症で、起きるのも難しいほどであるとの事であり、この治療として絶対安静を指示しているようだが、個人的には疲労感に対して東海大の野上准教授が行なっているコートリル投与+補腎はとても理に適っているいるように思う。ステロイドのような抗ストレスホルモンの補充は重要だ。(自分は大学院時代に副腎ホルモン研究者である関原久彦先生の指導を受けているので興味あるテーマです。例えばDHEAというホルモンは効果的かもなどと思ったりしています。日本には輸入禁止ですが)
  • 神経に関して:睡眠のケア、CBT、カウンセリング、投薬などを行います。
  • 呼吸器に関して:呼吸器トレーニングや投薬を行います。
  • 消化器に関して:腸内細菌叢のケア、適切な栄養補給方法、機能回復訓練、投薬を行います。
  • 循環器に関して:心臓リハビリ、投薬を行います。
  • 耳鼻咽喉科に関して:鼻うがい、EAT、内服治療などを行います。
  • 運動器に関して:リハビリ、理学療法、物理療法を行います。
  • 嗜好品に関して:カフェイン・アルコール・タバコは避けるよう指導します。
  • 精神に関して:CBT、アンガーマネジメント、精神療法、投薬などを行います。磁気療法なども試されている。

概念をメタ化する:

COVID-19から、他の感染症に拡大して理解するように努めます。長期の消耗状態では同じような病態に陥る事が多くあるので、これらの知識を応用できるようにする。

症状の共有:

辛い症状を共有する場があると良い。共有することで、同じ苦しみを抱えている人と知り合うことは、解決のきっかけになることがある。

その症状を記録することも大切だ。長く辛い症状があるときに、記憶そのものが書き換えられていることをよく経験する。記録は、ぶれた気持ちを元に戻してくれる作用を持っている。医療者との良い関係性を築く時にも大切だ。(器質疾患を除外しなければならないので、ある程度緻密さが要求されるため、この点でも大切)

記録をつけられない人々(ある種の発達障害かもしれない)は不利な立場にある。これをアシストする機器(スマートウォッチなどを利用したアプリ)の開発は急務と言える。

感染直後から後遺症に発展させにくくするアプローチはあるはずで、その研究のためには辛さを感じた時にリアルタイムで相談できるようなシステムの開発(人間が対応できるほどリソースは足りていない)も重要になるはずです。

まとめ:

このような話を読んだ時「こわーい」で終わってしまうならば残念です。自分あるいは身の回りの人々と健康状態を共有し合う事が、社会のどのような場面でもきわめて有効なのだと気づいていただきたくて書いています。自分自身へのまとめでもありますが。

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ストレスマネジメントの一例

「ストレスがあると食べちゃうんですよねー、どうしたら良いですか?」という質問は普遍的かもしれません。いろんな場所で聞きます。

ストレスで食べる、という行為は気分の矛先を自分に向けている状態で、それは人に頼らず我慢している状態なのでいじらしいとは思うけれど、自傷行為ともちょっと似ているように見え心配です。ストレスがあるなら、たとえば僕に共有しないのだろうか、というような事を思う。とはいえ、外来ではたまにしか会わない私にぶつけろというのは現実的ではない。毎日小さなストレスはあるだろうし、と思ったのか、ある日私はこんな話をしました。

利害の衝突しない誰かに相談してみよう

私は「悩みを自分で抱えるのはよろしくない」と考えています。人に話しちゃう、誰にでも話すのが憚られるならば話せる人を作っておく、というのはどうか。年が10ぐらい上か下だと良い気がします、利害が衝突しにくいから。あなたは年の離れた友人はいない?そういう視点で探していないものね。自分は誰にでも話しちゃうタイプではあり、たまたま年の離れた友人も多いので実感はしている。

世代が違う人々は「ニュートラルに見てくれる」という点で良き相談相手です。もちろん「あなたの心配は意味がない」みたいなクールな言い方をされる場合もありますが、それはそれで利害が衝突してない状態での意見ですので、素直に聞きやすい。

相談した結果自己解決できる場合も多い

患者さんの秘密は守りますが、自分自身は秘密を持たない人間で、波長があうと思うとすぐに友達認定して「聞いてくれる?こんなことがあってさー」と相談してしまいます。これは相談なんだろうか。切実に答えや共感を期待しているわけではないのです。言語化できた時点で、割合心は整ってしまうから。

でも誠実な相手には迷惑かもしれないな、と思うこともあります。

「僕、内視鏡写真を撮ったときに前から比べると下手になったと思う」と友人に写真を見せつつ相談した事があります。その友人が良い人で、本気で私を励まそうと悩んでしまったのです。

友人に申し訳ないことをしたなあと思い、その日の夜、時間をかけて自分自身の内視鏡写真の撮り方を振り返ってみた。すると内視鏡写真が変化した7つの理由、みたいな文章が書けて(と、日記には書いてあるのだけれど見つからず)、そのうち2つはいい理由だったんです。一つは自分の内視鏡技術が次の次元にうつったこと、もう一つはシリーズでみるといい写真になっていること、でした。後日友人に、いい理由も二つあったよと報告しました。するとその友人は「ああこれで眠れる」と言いました。そんなに考えてくれたのか、ほんとう申し訳なかったけれど、有り難かったです。

なにか悩みがあるときに、人に打ち明けるのも良い事だけれど、相手に負担をかけてしまうこともあります。したがって誰かに相談したからには、徹底的に内省するよう心がけています。その点で日記は非常に役立っているし、誰にでも勧めています。自分で抱えるな、という教えとは矛盾するけど、書いてみる、ということは良いことです。

頼れるものは人間だけじゃない

次に植物や動物を愛でる事もとても良いことだと思う。自分は植物や動物を愛でることはないけれど、ストレスコントロールが上手な人は決まって植物を育てたり、動物と仲が良かったりする。これには一定の効果が必ずあるはずです。

自分はぶらぶら歩きをする。目的を持たずに歩くといろいろな出会い(人ではなく、ものだったり、風景だったり)があって面白いからです。散歩が苦手な方は方向を決めることを勧めます。GPSを持って今日は北に1km歩く、というようなやり方は、今までにない変化をもたらしてくれるからです。アートにふれるのも良いでしょう。良いアートは頭がすごく混乱しますよ!そのあとすっきりする。

無、あるいはゴチャゴチャでも良い

このように結構いろいろ話しましたが、ストレスコントロールの方法は無限です。最近流行のマインドフルネスでは、「無」にすること、が強調されますよね。でもこれは獲得するのに一定の努力が必要だから外来で指導はしにくいです。

基本自分はゴチャゴチャと混乱している人間です。今日の話がごちゃごちゃしているようにね。たくさんのものと出会い、触れ合う、ということ重要視し、その中で「あ、これとこれは似ているかも?」という瞬間を大切にしています。それを世の中では『メタ認知』などと言う言葉で言い表すようです。チャンスを増やすには普段なるべく自分の寝床からは遠ざかる、という心づもりでいることが大切ではないかと思うんですが、家から全然出られない人もいまして、そういう人々にはまた別の助けが必要ではありますが、なるべく家の外の生活を楽しんでみることを勧めています。ゴチャゴチャした中に、ちょっとした共通点とか心動かされる事があったらそれを記録する、これを繰り返していると、たぶん良い事が起きるんじゃないかなと。

ロールモデルを探す

自分にもメンターやロールモデルになる人はいますが、友人知人を探さずとも最近はSNSの発達で、良いロールモデルが見つかるかもしれません。オープンマインドで、悪口を言わず(でも愚痴は言う)、悩みがあって、賢くて、自分の好きな事があり、言語化がうまく、困ったら上手に助けを求めるような、そんな人はインターネットに生息していて、自分に合うなと思う人を見つけてフォローしていると、とてもそれが学びや癒しになるんです。もしも見つからなかったら動物の映像を見ましょう。

まとめ

以上がとある日に患者さんに話した記録です。ストレスを感じたら食べちゃうんだけどどうしたら良いのか、と聞かれて困った挙句にだらだらと。

今回の文章を読み返したら「ストレスを感じたら、お菓子を食べずに動物の画像を見て癒されてみては?」で良い気はします。

本来説教は好きではないんです。が、なんとなしに網羅的に話せばならない気がしてたくさん語ったようで。きっと外来でこんなに話された患者さんは「なんかいっぱい話してるな」ぐらいの感想を持ったことでしょうし、体重にも影響しなかったことでしょう。

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ベン・シャーン

知っておいたほうが良い芸術家。

山藤章二(やまふじ・しょうじ)さんが2024/09/30に亡くなったと報道がありましたが、彼もベン・シャーンに影響を受けた一人だ、とのTweetを見ました。

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記憶にある名前だ……と自分の日記を検索して見つけました。2011〜2012年に神奈川県近代美術館葉山分館で行われた「ベン・シャーン展」に行った記録です。

2011年3月11日の地震後に「第五福竜丸」関連の展示(ベン・シャーンは第五福竜丸の被爆を作品にしています)が偶然行われた巡り合わせは、友人の中根が言うように「奇跡」と当時思えたのですが、その記憶が彼方にあったという事実。

先日亡くなった松岡正剛さんも書評、というか、関連エッセイをお書きになっています。

[1207 夜松岡正剛の千夜千冊](https://1000ya.isis.ne.jp/1207.html)

自分の2012/01/26の日記が公開設定になっていたのでリンクを置いておきますが、コメント欄が大変味わい深いのでそちらもご覧いただけるとありがたいです。

Kunio Ukawa

ベン・シャーンのすごさについては、当然専門家や先達の理解が自分を超えているため、それについて日記で言及することはしませんでした。強いて言えばもっと勉強してから行くべきだった、もっと感動しただろうと後悔はしている様子。

まったく予備知識なく展覧会に行ってしまう場合は多いのですが、その時自分の頭では「この作品がいま自分の前にある意味」を必死でぐるぐる考えます。

美術館・観劇用に買ったオペラグラスで作品を見たとき、自分の手の震え(僕は手が常にふるえている)と、彼が描くプルプルの線がシンクロして美しい曲線が一瞬だけ見え心が動かされました。そしてその作品が自分にとって大きな意味を持ったのです。

芸術はどんな見方をしても良いのですから、皆さんも思い思いに楽しんで下さい。今日これを書くまでしばらくオペラグラスを持って行くのを忘れていたことに気づきました。というより、普段から持ち歩いた方が良いですね。

一筆書きで、プルプルさせてとプロンプトを入れ、AIで絵を描くと、ちょっとだけベン・シャーン風に見えるようになりました。

一筆書きで、プルプルさせてとプロンプトを入れ、AIで絵を描くと、ちょっとだけベン・シャーン風に見えるようになりました。

憩室炎の予防

腸に小さな袋(憩室)ができることを憩室症と言いますが、そこに便や食べ物が詰まって炎症を起こすことを憩室炎と言います。

この病気を防ぐために、昔から「ナッツや種を食べない方がいい」といった指導がされることが多いのですが、実はそれを裏付けるしっかりした証拠はありません。ですから、そんな指導をしつつも、矛盾に気づいている医師もいるのではないかと思います(もちろん、気づかずに慣習として指導している場合もあるでしょう)。

現代では憩室炎は細菌炎症、というよりは炎症のプロセスが問題である、という認識がなされています。従って、AGA(米国消化器学会)のガイドラインでは憩室炎であっても、ある程度症状が軽い場合には抗生物質を使用せずに透明な液体のみを飲んで経過観察する、と書かれています。

矛盾に満ちており指導も治療も難しい病気……でもこの予防、経過観察のために患者さんにできる良いアドバイスはないのでしょうか。

2020年ですが「炎症が起こりやすい食べ物」という概念が提唱されています。

NCBI - WWW Error Blocked Diagnostic

46,000人の男性を40年追跡し、得られたデータです。

CRPやIL-6などの炎症マーカーを調べた結果として、糖分が多い飲料、内臓肉、赤肉、加工肉、脂肪分が多いと炎症を起こしやすく、緑黄色野菜、コーヒー、紅茶、繊維質、ワイン、ビールは炎症を起こしにくい傾向があったそうです。そしてそれが憩室炎の発症とリンクしていました。

私自身は「ビールは憩室を増やす!」(憩室炎を増やすとは言ってないが)と指導していたのでとっても意外な結果でした。

もちろんそれら(CRPやIL-6など)は心血管疾患のマーカーでもあり、それらがこういう食事の摂取とリンクしていることはとても興味深いことです。またこれは観察研究でありバイアスもあるでしょう。因果関係は明らかではありませんから強調しすぎないようにせねばなりません。

ただ患者さんには「もしもこういう食事を食べているならば、避けて」と提案してみて、それでCRPが下がるかどうかを見る、介入する事は可能です。

いつもビデオで話してくれるDavid Johnson博士の話を簡単に翻訳しました。

私自身は、憩室炎の前兆としての便秘、あるいは大腸の過蠕動をどうコントロールするか、という事もまた重要だと考えています。なぜならば日本人はすでに憩室炎には悪くないとされている食事をしてらっしゃる方が多いからです。また、憩室炎の本質は血流障害だ、という考え方も重要視しています。

大建中湯や桂枝加芍薬湯などの漢方、整腸剤の使い分け、マグネシウム、食物繊維、適切な下剤、過度な繊維の抑制、FODMAPやグルテンアレルギーの概念、水分をどう摂取しているか、そうした事も患者さんとの対話の材料になります。あと運動です。ジョギングのような、体を揺らす運動が良いのだろうと提案しています。

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目的と手段

「先日のことだけど、熱中症になりかけてしまった」

「お疲れ様でございます」

「なぜなったんだろうか」

「うん?」(運?)

「なぜなったんだろう、おかしい、水は飲んでいたのに」

「汗をかければ体温が下がるということで水分大切ですね」

「汗はちゃんとかいてたんだ」

「うんうん、でも気化熱で体温が下がらないといけなくてね」

「汗が出れば体温は下がるでしょう?」

「汗は蒸発することで体の熱を下げます」

「そうなのか」

「だから全く風が吹いていない、あるいは湿度が高い室内が危険だったり」

「そうなんだ」

「別のシナリオも考えられます。水ばかり飲んで汗が大量に出た結果として、汗には通常0.3%の塩が含まれるのでナトリウムが不足してしまいふらつく場合もあります」

「わからないねえ」

「難しいですか」

「難しいよ」

熱中症は病態の評価が難しい病気で、評価せずに適当な点滴などの治療をすると悪化させます。当院のような、院内で血液検査ができない医療機関に受診するのは避けましょう。

熱中症予防の工夫はすべて「深部体温をあげない」が目的になっていて、その手段が色々とあるんだという事を意識してください。

風邪を引いた時に「薬ください」という人がいますが、風邪が治ると勘違いしてはいけません。薬の目的は風邪が治ることではなく、多少症状が軽くなる事が目的です。

目的を意識することはとても大切なことなので、普段から「これは目的?手段?」と考える事をお勧めします。「検査を目的とした受診は避けて」と自分が言うのは、それなんです。(人間ドックは検査が目的なのですが)

スペクトラムバイアス

線虫で癌がわかる、という触れ込みの検査がありますね。 感度も特異度も80-90%をうたっているようだが、治験で癌患者さんとコントロールの数を50:50でやると、正確な感度特異度は出ないと思うんだけど大丈夫だろうか。この数字は感覚的におかしい、納得できない。ほとんど全ての癌マーカーは、この方式で感度特異度を出しているようだけれど、実際には偽陽性が多すぎる。(つまり陽性だがハズレが多い/陰性でのハズレは永久にわからないが多かろう)

そんな事を私がつぶやいていたところ、N先生(いろいろなガイドライン策定に関わっておられる先生)からありがたいお言葉を頂戴した。

すでに診断がついた人と病気がない人を別々に取ってきて群を作ると,グレーゾーンが抜け落ちるので,仰るとおり感度特異度が高く出ます.スペクトラムバイアスと呼ばれています.割と,そうやって出されている感度特異度は多いのに,感度特異度の数字だけ独り歩きしています. 正しくは,疑った患者全員を対象に検査をして,同時に全員に対してreference standardで疾患の有無の確定診断を付けて,2×2表を作って感度特異度を計算します. がん検診の有効性は限界があるので,難しさを感じています.

うん、これならよくわかります。自分は鵜川医院の患者全員を対象にして、胃がんとか乳がんとか大腸がんなどに有効な検査はなんなのか、を数万人規模だけれども見続けてきたので、「ここ」というところにある程度正確に介入が可能になったんだなと理解ができました。

自分の返事はこれ

Spectrum bias とかSpectrum effectという言葉は、連続性がないことがすぐにわかる良い言葉ですね。 新しい腫瘍マーカーだ!と発表されている研究の多くで同様な感じなので「良いのかなあ」と思っています。ありがとうございます。

「物事はスペクトラムで捉えないとだめ」という事、この2−3通のレターで繰り返してきた話題なので、紹介しました。

chatGPTによる解説

「スペクトラムで捉える」というのは、物事を「連続的な範囲として見る」ことを意味します。特に医療や診断の文脈では、病気の状態が「ある」「ない」といった二分法ではなく、程度や範囲があると考えるべきだということです。

例:がん検査とスペクトラムバイアス

  • 「スペクトラムバイアス」とは、診断検査の評価において、検査対象の集団が実際の臨床現場と異なることで、検査の感度(病気のある人を正しく陽性と判定する確率)や特異度(病気のない人を正しく陰性と判定する確率)が歪んでしまう現象です。たとえば、がんが確定した患者と、まったく健康な人を対象にした検査だと、両極端のケースしか集めていないため、その検査の性能が本来よりも良く見えてしまいます。

スペクトラムを理解するためのポイント

  • 疾患のグレーゾーン
    • ある疾患が「ある」か「ない」かだけではなく、疾患の進行具合や、まだ発症していないがリスクが高い状態(前癌状態)など、さまざまな段階があります。
    • 診断検査は、こうした段階や重症度に対応することが求められますが、極端な例ばかりを対象にすると、グレーゾーン(境界例)を見逃しがちになります。
  • スペクトラム効果の解消
    • 正しい診断精度を評価するためには、疑わしい症状がある全員を検査し、その後に標準的な方法で疾患の有無を確定診断する必要があります。こうすることで、実際の臨床現場に近い状況が再現され、感度や特異度がより現実的なものになります。
  • 検査の限界と現実
    • 多くのがん検査やマーカーは、実際の臨床現場では、完全に正確なものではありません。特に偽陽性(病気ではないのに陽性と出る)や偽陰性(病気があるのに陰性と出る)が一定の割合で発生します。
    • そのため、検査の結果を「スペクトラム」として捉え、個々の症例に合わせた対応や追加検査を行うことが重要です。

まとめ

  • スペクトラムで物事を捉えることは、病気や症状が連続的に変化するものであり、単純に「ある」「ない」だけでは表現できない複雑な現象であるという理解につながります。医療では、この視点を持つことで、より現実に即した診断と治療が可能になります。

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